「AIって怖いもの?」という誤解から始まる

プログラミング教室で小学生たちにAIを触らせると、最初はみんな同じ顔をする。「これ、本当に答えてくれるの?」という半信半疑の顔だ。

でも15分もすれば、様子が変わる。自分のアイデアをAIにぶつけ始め、出てきた答えに「なんか違う」と言いながら言い直す。その「なんか違う」という直感こそが、実は一番大事なものだと私は思っている。

AIは怖いものでも、万能なものでもない。鉛筆や計算機と同じ「現代の文房具」だ。道具は使いこなした人が強い。子どもたちへのAI教育を語るとき、私はいつもここから始める。

GIGAスクール構想で環境は整った。でも「使いこなす力」は別の話

1人1台のタブレットが整備され、クラウドを使った学習環境が全国の学校に広がっている。世田谷区の事例をはじめ、多くの自治体がICT活用を進めていることはニュースでも見るとおりだ。

ここで一つ、現場にいる者として正直に言いたいことがある。環境が整うことと、使いこなせることは全く別の話だ。

包丁が家にあっても料理ができるわけじゃない。タブレットが手元にあっても、AIを「自分の思考の道具」として使える子は、まだ少ない。道具の使い方を覚えると同時に、道具を使って何を考えるか——そこまでセットで育てていかないと、ただ画面を眺めるだけで終わってしまう。

門司港の小学生が教えてくれたこと

私が月2回運営しているプログラミング教室は、門司港という地方の町にある。東京でも大阪でもない。でも子どもたちが使えるAIツールは、都市部の子どもたちと何ひとつ変わらない。

これは、私が地方にいるからこそ強く感じることだ。AIは地方と都市の差を縮める武器になりえる。問題はツールへのアクセスではなく、使い方を誰かが伝えているかどうかだけだ。

教室で繰り返し目にする光景がある。AIが出した答えを読んで、子どもが首をかしげる瞬間だ。「これ、なんかちがう」「もっとこういう感じにしたい」と言いながら、自分の言葉で問い直す。この「なんか違う」という感覚こそが、思考力の芽だと私は信じている。AIの出力をそのまま受け取らず、批判的に見る目——これは学校の授業では育てにくいが、AIと対話する中で自然と育ってくる。

AIを使いこなすために、実は最初に必要なこと

ここで一つ、意外に思われるかもしれない話をしたい。

AIをうまく使えるかどうかは、タイピングの速さと正確さに大きく左右されるという事実だ。

音声入力があるじゃないか、と思う方もいるだろう。確かに便利だ。でも現実を考えてほしい。学校の教室で30人の子どもが同時に声でAIに話しかける光景を。職場で同僚の隣に座りながら、ずっと声でAIに指示を出す場面を。電車の中や、静かな図書館での作業を。

音声入力が使えないシーンは、日常のいたるところにある。

私はよく「そろばん」の話をする。そろばんを習った子は暗算が得意だ。電卓が使えない状況になっても計算のスピードが落ちない。タイピングもまったく同じ構造だ。タイピングが身についている子は、どんな環境でもAIをスムーズに使いこなせる。音声入力に頼りきっている子は、声が出せない場面で途端に手が止まる。

タイピングは、AIを使いこなすための根本的な基礎技術だ。これは2026年の今、もっと広く伝えられるべきことだと思っている。

「AIに仕事を奪われる」ではなく「AIで仕事をつくる」世代へ

AI研修でサロンオーナーや中小企業の経営者と話していると、「AIに仕事を奪われないか」という不安をよく聞く。その不安は理解できる。でも私の答えはいつも同じだ。

奪われるのは「AIに任せてもいい仕事」だ。人間にしかできない判断・発想・感情的なやりとりは残る。大事なのは、AIを使って「人間にしかできないことに集中できる環境を自分でつくれるか」どうかだ。

これは大人の話だけじゃない。今の子どもたちが社会に出る頃、AIはもっと当たり前の道具になっている。その時に「使ったことがない」では話にならない。でも「ただ使える」だけでも足りない。AIの出力を自分の目で評価して、足りないところを補い、最終的に自分の言葉で仕上げられる——そういう人間になれるかどうかが問われる。

それは結局、思考力であり、表現力であり、判断力だ。AIを教えることは、これらを育てることと同じだと私は思っている。

今日から始められること

難しく考えなくていい。まずは子どもに「AIに質問させてみる」ところから始めよう。答えが返ってきたら「これ、本当にそう思う?」と横から一言聞いてみる。それだけで、AIを受け身で使うのではなく、対話する道具として捉えるトレーニングになる。

そしてもう一つ。タイピングの練習を日常に取り入れてほしい。将来AIをどれだけうまく使えるかは、キーボードをどれだけ自然に扱えるかと、案外直結している。

門司港という小さな町の教室で、子どもたちがAIと格闘している姿を見るたびに思う。道具は変わる。でも道具を使いこなす人間の力は、時代が変わっても価値を失わない。その力を育てるのが、今の私たち大人の仕事だと思っている。


篠崎友寿 / 門司港BONGO・TripType運営